少しずつ、遠く離れて住む母の様子がおかしくなっている気がして、帰省の準備をしていた。今度こそ病院に行って認知症の検査をしてもらおう。

帰省を控えたそんなある朝、いつものように電話をしてみると明らかに母の反応がおかしい。

おばあちゃん(たぶん母の母、私の祖母)が天国から許可を得てすぐ近くまで来ているのだけど、どんなにここにいるよって呼びかけても近くまで来てくれない。今自分は何も身にまとっていない。どうしてこんなに情けない思いをしなければならないのか。

どんなに急いで準備して帰っても、母のもとにたどり着くのに5時間以上はかかる距離だ。

時間は朝9時を回っていたので、迷惑を承知で出社早々のケアマネージャーに連絡をして、様子を見に行ってもらうようお願いする。

準備をしている間に母を訪ねてくれたケアマネージャーから電話が入った。私が訪ねた時は、特におかしな様子はなく普通でしたよ。朝の状況は一時的なものだったのか。ほっとする反面、それでもやはり朝の母の異常さが気にかかる。

認知症の検査について私自身まったく知識がないので、プロから説明をしてもらった。


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<認知症の検査について>

◎長谷川式認知症簡易評価スケール <かかる費用:比較的安い>

長谷川式認知症簡易評価スケールは、国内でもっともよく使われている認知機能テスト。
簡単な質問をおこない、その答えでどのくらい認知機能が低下しているかを判断します。 
質問の内容は、名前や生年月日を尋ねるものや、簡単な計算、記憶力を試すものなど。
答えが正確かどうかで点数が付けられます。トータルの点数が30点満点中20点以下だと、認知症である可能性が高いとされています。

◎ミニメンタルステート検査(MMSE) <かかる費用:比較的安い>

MMSEは長谷川式と同様に、簡単な質問で認知機能を評価するテストです。
長谷川式よりも少しだけ質問項目が多く、22〜26点で軽度認知症の疑い、21点以下で認知症の疑いが強いとされています。

◎ウェクスラー記憶検査(WMS-R) <かかる費用:比較的安い>

WMS-Rは、世界的に使われている総合的な記憶検査のテストです。
言語を使った問題と図形を使った問題が含まれており、これらに答えることで記憶力や集中力、注意力などを評価することができます。

◎画像検査 <かかる費用:比較的高い>

認知機能テストの結果だけでは、認知症とは診断されません。CTやMRIなどの画像検査で確認する脳の状態も判断の基準になります。脳のどの部分がどのくらい萎縮しているかによって、認知症のタイプや進行度を見ることができます。

◎その他の検査 <かかる費用:比較的高い>

認知機能テストや画像検査以外にも、血液検査や尿検査などがおこなわれる場合もあります。
ほかの病気が影響している可能性もあるため、この検査は認知症以外の病気がないかどうかを調べるためにおこなわれます。 どの検査をおこなうかは医療機関や医師によって異なりますが、検査をおこなうときは「長谷川式認知症簡易評価スケール」などのテストに、MRIなどの画像検査と血液検査を組み合わせることが一般的です。あくまでも目安になりますが、費用は「約数千円〜2万円以内」と思われます。

次に、これらの認知症の検査はどこで受けられるのかをご紹介します。

認知症の検査や診断は、病院や診療所、クリニックで受けることができます。
診療科の種類は、主に精神科や心療内科、脳神経外科、神経内科など。 
これらの外来がある病院やクリニックでは、基本的にどの科でも検査が受けられますが、もしかかりつけの医師がいるのなら、まずはそこで相談してみるのもひとつの方法です。
かかりつけ医は、これまでのご本人の経過をよく把握しています。そこから認知症である可能性を判断したり、必要な場合は専門の病院を紹介してもらうこともできます。

最近では、もの忘れ外来や認知症外来という専門外来を設けている病院も多くなっています。
これらの専門外来では、日本認知症学会などで専門医の資格を取得した医師が診察していることが多いそうです。
また、老年内科という高齢者を専門に見ている外来もあり、認知症も含めて全身を検査してもらうことが可能です。
認知機能のテストだけなら、インターネット上に内容が公開されているものもあるので、自宅や施設などでもおこなうことは可能です。しかし、あくまでも目安なので、認知症かどうかをきちんと判断するには、病院で受診することが大切です。 認知症のような症状に見えても、実はほかの病気からくる症状だったという可能性もあります。「認知症かな?」と思ったときは、自己判断せずに、病院で医師の診断を受けられることをお勧めいたします。

実家にたどり着いて家に入ると、拍子抜けするくらいいつも通りの母が出迎えてくれた。会社、お休みしたの?と屈託なげに聞いてくる。母の顔を見ると左目の周りに血がにじんで、左のこめかみあたりに打撲の跡の内出血が見られた。それについて聞くと自分ではまったく認識がないらしく、特に覚えがないし、痛みもないという。

実家から今の母の足でも歩けるところに脳のMRIを撮ってくれる病院がある。事前に電話して聞いてみたところ、認知症の検査も可能で当日中に判定結果を教えてもらえるとのことだったので、規制の翌日、母を連れて検査してもらうことにした。

帰省した当日の翌未明、母はトイレに立ったときに転倒した。

私は別の部屋で寝ていたのだが、物の倒れる大きな音と共に母の悲鳴が聞こえたので驚いて起きて行ってみると、母が廊下に倒れている。もう私はダメ。母は子供のように泣きながら体を縮こませた。抱き起してベッドに寝かせたのだが、翌朝そのことは覚えていないようだった。ただし顛倒のせいで体のあちこちが痛むらしく、そのせいで精神状態も不安定だ。

本当は朝から検査に連れていくつもりをしていただけど、母はむずかって行きたがらない。仕方がないので夕方の診察時間に連れていくことにした。

まだ夏の終わりなので、18時前といえど日は高い。暑さは随分やわらいだその夕暮れに、母と私はゆっくり歩いて病院に向かう。

途中道幅の広い国道をひとつ渡らなければならないそのとき、私は母の手を取る。母の手は小さくてやわらかで、夏だというのにひんやり冷たい。私が子供のころすがって歩いた母の手はもっと温かだったことを思い出す。

病院で検査をしてもらったところ、脳の萎縮は年相応です、と言われた。上述の検査方法のうち、MRIなので「画像検査」に該当すると思うが、母の後期高齢者医療被保険証で請求された金額は2,500円弱だった。

もう手もつけられないほど認知症が進んでいるという宣告を受けるのではないかと思っていた私は、正直安堵した。画像結果は別として、母のいる前で、母の日ごろの言動を医師とはいえ第三者に伝えることで、母を傷つけたくないのだけれど、すっかり耳が遠くなってしまった母は、私が医師に伝えている自分についての日ごろの言動のその内容を聞き取ることもできない。穏やかに微笑みを浮かべて、聞こえてもいないのにときどきうんうんと頷いてみせる。MRIの画像ではっきりそれとは認められないものの、日ごろの母の言動は認知症の恐れありということで、薬を処方してもらうことになった。

私が帰った後、処方した薬をきっちり服用することができるのか、これがまた別の問題なのである。

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