(続き)
84歳になった母の体力が春あたりから目に見えて落ちてきたこと、加えて認知症の片鱗と思われる傾向が表れ始めてきたこと。自分にとって楽しくないこと、好ましくないことはついつい後回しにする悪い癖のある私なのだが、友人のアドバイスもあり、帰省の度に少しずつ奈良にある老人ホームを見学させてもらっていた。
その結果、ここにお世話になろうという先は私の中では決まっていて、あとはどう母に納得してもらうか、が課題だった。ここが一番ハードルの高いところだ。母にしても私にしても。
84歳とはいえ、人は誰しも自分を老人だとは思いたくないはずだし、心細いながらも今までの生活はなるべく変えたくないと考えているに違いない。もう30年以上も住み慣れた家なのだから猶更だ。まったく身寄りがないわけでなく、私という子供がいるのに老人ホームに入るなんて、なんだかまるで姥捨て山ではないか。
言い訳ならいくらでも出てくる。
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さすがに母も体調がよくないときは弱気になるので、そろそろ一人暮らしも心配だから、ホームに入ることを考えてみない? 良いところを見つけたから、今度一緒に見学に行こう。そこまでの話は母としていた。老人ホームに無理やり放り込まれた、という気持ちになって欲しくないので、事前に母と一緒に見学をして母にも納得して欲しかったのだ。
だけど。
こうして今年になって2回目の自宅内での転倒が原因の入院となってしまい、本当にこんな悠長なやり方でよかったのか、後悔せざるを得なかった。ましてや今回は圧迫骨折。母はもう自力で歩くことができなくなるに違いない。
もっと早め早めに手を打って母にホームに入ってもらっていたら、冬支度のため高い押し入れの天袋に物を出し入れすることもなかったのだ。もう家のことをするのが億劫になった、と何度も言っていたのに。
退院したら、否が応でも老人ホームに入ってもらおう。
既に後手なのだけれど、そう決意した。なんて何が決意だ。というより、おそらく退院後一人で生活することはこれまで以上に難しいだろう。決意も何も、私が東京での暮らしを清算して母の面倒を見ることにしない限り他に選択肢はないのだ。
帰省時に複数の老人ホーム見学の手配をしてくれた奈良の業者に、今回の事情を説明し、退院と同時にホームに入りたい旨メールを送った。既に入りたい老人ホームは業者には伝えていて、いつでも入居の手続きが始められるよう業者を介してホームに必要書類は提出済みだった。
今回、帰省して行うべき主な事項は次のとおりと決めて、帰省の準備を始める。
1. 入院先の病院との契約を済ませる
2. 老人ホーム入居の手続きを開始する
3. ケアマネージャーと介護区分変更手続きの相談(希望している老人ホームに入るには要介護1以上が必要であるため。現在の母の介護度は要支援2。かかりつけ医からは、現在の介護度認定後母の状態は悪くなっているため区分変更を勧められていた)
4. 実家の不用品整理の開始
母が自宅で転倒したのが日曜日、救急車で搬送されたのが月曜日。水曜日に奈良に変えることにした。
(続く)